アメリカの寄付金文化ってどんな感じ?
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アメリカの寄付金文化ってどんな感じ?

日本とアメリカでの寄付金に対する考え方の違い


アメリカ生活を始めて最初に感じる身近な日本との違いの一つは、アメリカの寄付金文化を肌で感じる機会が多いことです。


チャリティー(Charity)やドネーション(Donation)、ファンドレイジング(Fund raising)という言葉をよく聞くと思います。


もちろん、日本であっても災害時の募金活動、赤十字や恵まれない子供たちのためにという寄付を募る広告はよくあります。


しかし、アメリカで寄付金というとこれとは違い、より身近なイメージがあります。寄付を募ることは文化と呼べるほど日常生活の一部となっており、更には何事にも寄付を募るのが当たり前です。


今回は、そのようなアメリカの寄付金文化を理解するためにも、いったいどのような背景や意味があって、どう対応するべきかを説明したいと思います。




  • アメリカの寄付金の現状
  • 寄付を募る理由
  • 寄付の根底を支えているのは宗教的概念
  • 寄付は税金対策
  • チップ文化
  • 子供の生活に関わる寄付金
  • 寄付を募られたらどうするか?



 【アメリカの寄付金の現状】 

 

まず、アメリカ人はどのような機関に寄付をするのでしょうか?


 Giving USA 2021 によると、2020年は記録となる寄付金の集計額を上げ、1年間で$471.44 billion(471,440,000,000 ドル=約46兆円)、一日に換算すると$1.29 billion以上(約1,400億円以上)の金額が寄付されています! 

 

この金額だけで、どれ程経済が動かされているか?という具合の金額です。 


また、個人での寄付が何と全体の69%以上で、企業や団体は19%となっており、個人がアメリカの寄付文化を支えているのがわかります。 


寄付金の配分先としては、1位が宗教団体(28%)、2位が教育機関(15%)、3位が社会福祉団体(14%)となっています。


 寄付を募っている団体は、なぜ寄付金が必要で、どのように利用するかという事を広告やウェブサイトで細かく説明しています。


 一度きりの寄付でなく継続的に寄付をしてもらえるよう、「あなたのサポートが、世の中や地域の革新に繋がる」と綴っています。 


また、キックスターターのように、今ではオンラインで簡単に寄付が出来る仕組みが出来ていることから、人々も気軽に寄付できるようになっています。



【寄付を募る理由】 


 寄付を募る理由は、もちろん団体によっても様々ですし、先に述べたように寄付を募るのは当たり前となっているのもアメリカの実情です。 


 しかし、根本的な事では、貧困問題、貧富の差や収入の格差というのが根底にあります。 


 アメリカでの貧困差は日本でのそれと比べ物になりません。 


 私の住んでいる地域はとてもリベラルで有名な町なのですが、ミシガン湖沿いの家は数億円の豪邸があり、長期の休み毎に海外や西海岸、東海岸とバケーションに出る人々が多く住んでいます。


 しかし、同じ学区には町の中でも比較的低所得者が住んでいるエリアもあります。 


 そのような家族に比べると、もちろん収入の違いが顕著で、シングルマザーというような家庭状況の違いも見られます。


 そうなると、このような家庭環境、収入状況の違う家庭が、同じように必要な物に対して出費を出すことは無理である、という事を多くのアメリカ人は理解しています。 


 よって、出費を出せる余裕のある人は、出せない人に対してサポートしましょう!という共通認識がアメリカには存在しているのです。 



【寄付の根底を支えているのは宗教的概念】 


アメリカは様々な人種が住んでいる国とはいえ、やはりキリスト教という宗教的概念が、日々の生活に表れています。 


寄付ももちろんその一つ。 


「あなた自身を愛するように、隣人を愛さなければならない」や、富める人は貧しい人に分け与えるべき、というキリスト教の精神や教えは大きく影響しています。


 よって、寄付金だけでなく、ボランティア活動のように、人のために働く事は、倫理的にだけでなく宗教的に美徳とされているのです。


 多くのアメリカ人は、そのようなキリスト教の教えが小さい時から身についています。


 与えられるような立場であれば、寄付をするよう学んでいるため、生活の一部となっているのです。 



【寄付は税金対策】


 キリスト教的な教えや倫理的モラル、貧富の格差を目の当たりにしているという事以外にも、実は寄付金は税金対策としても考慮されています。 


2020年分の納税に関して言えば、個人の寄付に対しては、何と100%の税額控除を受ける事ができるのです!


 例えば、500万円の収入で、10万円を控除対象となるNPO団体や公的基金に寄付したなら、所得税は500万円-10万円=490万円から計算されることになります。 


また、企業であっても、以前は寄付金の10%が税金控除できる仕組みでしたが、2020年からは25%と増えています。 


税金の話は少々複雑なので詳細は省きますが、アメリカでの所得税の計算方法は、タックスブラケット(tax brackets)という税率基準を利用します。


 所得額のこの範囲では税率が12%。次の所得範囲では22%、24%という具合に、所得額の範囲によって税率が変わります。


個人で寄付金を出した場合、100%税金控除できるとなると、もちろん基本的な所得税額が変わるのは簡単に理解できると思います。 


加えて、このタックスブラケットの次のレベルに入るかどうかの人にとっては、寄付金額は所得を低くできる分、全体的にかかる税率が、例えば12%となるか22%となるか、という具合に大きく変わる可能性があるのです。


 この事実により、税金対策の一環として多額の寄付金を出す人には、日本でも名前を聞いたことのあるような高額所得者の人が多いです。


 国に自分の税金を納めるより、自分の好きな機関に寄付をして、税制優遇で支払う税金額を低くするというのは常識となっています。


 高額所得者のみでなく、中流階級であっても税制優遇の恩恵はそれなりに受けられるので、気兼ねなくなく寄付ができるというのも人々が寄付する理由となっています。

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【チップ文化】


 忘れてはならないのが、アメリカはチップの文化が大きく影響している国という事です。 


チップも考え方としては寄付金の一部です。 


もちろん最近では領収書にサービス料として含まれている場合もありますが、基本的には、良いサービスに対しての対価を表すために、チップで金額に表すというのが考え方です。 


このようなチップ文化がアメリカや欧米でにあるため、意識せずに寄付することに慣れていると思います。


 しかし、知られていない事情かと思いますが、ウエイターやウエイトレスは、チップをもらう事が前提となっているため、お店から得られる収入は、実は最初から控えめになっています。


 私が学生の時にアルバイトをしていた20年ほど前は、一日の労働が5時間のうち、日給が6ドル程度でした。 


その代わり、チップとしては一日少なくても70ドル、多くて120ドル程度稼いでいたので、全部の収入としては十分でした。


 日本人の中には、「何で大したサービスを受けてもないのにチップを払うのか?」と腑に落ちない人も多いと思います。


 しかし、チップという名ばかりの寄付がデフォルトとなっているアメリカのレストラン業界では、チップは大きなミスをした場合以外は、最低でも15%、通常は18~20%支払うのが普通なのです。


 この仕組みには賛否両論あると思いますが、現状はこの状況なので、アメリカに来たら、チップは支払うもの!と考えてください。


 もう少し詳しい情報については、『アメリカの学生バイト事情』をご覧ください。

 


【子供の生活に関わる寄付金】 


赴任なり、国際結婚なり、子供がいる中でアメリカの生活を始めた場合、この寄付金文化はもろに目の当たりにすると思います。 


私も引っ越しして来た当初は、こんなに何事にも寄付を募るものなのか、と驚きました。


 毎週送られてくる学校からの情報には、学校にもPTAに対しても寄付は募られています。 


PTAのイベントの多くは、ほぼ全額寄付で賄われています。 


また、学校のイベントであっても、遠出するような際には、生徒からいくらか資金を徴収する場合があります。


 その場合は、必ず「貢献(Contribution)」という形で、いくらでも良いので、出費できない生徒のために費用を出していただけると助かります、という寄付金を募るシステムは普通のことです。


 また、スピリットウエア(Spirit wear)という形で、学校のTシャツやロゴの入ったアパレルを販売し、売り上げの一部をPTAや学校の活動、クラブ活動の運営資金にするのもあります。


 地域のスポーツクラブチームの場合でも、同じように寄付金を募り、費用が出せない子供でも一緒にスポーツ活動が出来るよう、奨学金が出せるように寄付を募っています。 


学校のスポーツ関連の活動に関しては、子供の年齢が上がるごとに、その寄付金集めの方法や金額自体も規模が大きくなってきます。


 特に高校生となると、『トラベルチーム』などの私営のクラブチームを除き、子供たち自身はノルマを持たされて寄付金を集めなくてはならない状況もあります。


 我が家の子供たちは野球をしていますが、チームとして寄付金集めのパーティーを開催し、その出席チケットやラッフルズ(景品が当たるくじ引き)のチケットを買う、または売るようになっていました。


 最低一人$100を集めるのがノルマでしたが、我が家はもちろん親が普通に出席チケットとラッフルズを購入して補いました。


 この支出は生徒一人としての換算でしたが、親に対してもチームへの寄付金は普通に募られ、ここでも「一家庭この金額を出してもらえれば、必要な用具が新たに買える!」と言われるため、もちろん通常の家庭ではその最低額を出すようにはしていました。


 前年は一人$200が、各家庭として出してほしいと言われた金額でした。


 通常の部活動参加費用として、安いながらも$150払っている上での親と子供それぞれに対する寄付金。


 寄付金からの収入も、最初からすでに部活動運営費に記載されている決算予定表というのもおかしな話ですが、これが現実です。


 お子さんが小さい家庭でスポーツを真剣にさせたい親御さんは、そのような金額も将来かかる事をご理解ください。 



【寄付を募られたらどうするか?】 


寄付をするというのは、正直なところ、誰かを助けているという気持ちが生まれます。


 だから、出来る事なら寄付はした方が人のためにも自分の気持ち的な面でも良いことだと個人的には思います。


 しかし、何から何まで寄付を募られても困る、自分の家だけでも経済的に精いっぱいだ、というご家庭もあるでしょう。 


そこはやはりバランスでないでしょうか。 


基本的にやはり寄付は寄付。 


無理が出て気持ち的にもやらせられている感があるなら、寄付をする必要はないと思います。 


高校のクラブ活動などでの寄付金は別として、多くの場合は、「出来る事なら寄付を!」という気持ちは本当で、無理強いをするようなものではありません。


 真面目な日本人であれば、やはり寄付をしないと申し訳ない、寄付をしないと問題になるか、という思いがあるかもしれませんが、そのような気持ちは持たなくて大丈夫です。


 また、イベントなどの場合は、寄付金と同時にボランティア活動を募る場合が多いので、寄付金の代わりにボランティアという形でサポートするのも良いと思います。


 ただし、何度も書きますが、子供が高校の部活動をするのであれば、最低額の寄付は必要であると思ってください。


 ここでの寄付金は、多くの場合に基本的な部活動の収入資源となっています。


 アメリカ生活では、寄付金文化が根差しているので、家族で生活し始めの際は驚く事が多いかもしれません。 


しかし、以上で記したように、宗教的、精神的、貧困問題、税制優遇、チップの制度など、寄付をするという感覚は毎日の生活にとても密着しています。 


日本とは大きく違うのですが、結局のところ出来る範囲(少ない額でも全く問題無し!)で他の人々の助けになれるというのは、自分にも良い気持ちを返してくれます。 


無理のない範囲で、気持ちよく参加できるのであれば、寄付金文化というのも馴染めるようになると思います。特にお子さんにとっては、良い教育になると思いますよ。